抜群のヌケの良さと、優れた吸汗・速乾性。これまでのフリースの常識を打ち破る、Octa Fleece
フリースは保温着の万能選手だ。あたたかく、着心地が柔らかいうえに軽くて丈夫。全方位的な使いやすさは、保温系ウェアの定番と言ってもいいだろう。
しかし、このフリースが持つ特徴の一部は、高負荷のアウトドアアクティビティにはマッチしないことも知られている。たとえば保温性の高さは放熱性の悪さにつながり、熱こもりを招いてしまう。簡単に言えば、町中での使用といった運動量の変化が小さい状況でなら、保温性の部分だけにフォーカスすることができる。
しかし体温が上昇するような激しい運動を迎えると、こもった熱が抜けにくいという特性がクローズアップされてしまうのだ。結果的に負荷の高い運動では部分的に保温過剰のホットスポットが生まれやすく、それが余計な発汗を招いてしまう。
さらに多くのフリースは吸汗スピードが遅い。つまり汗を吸い上げて外側のレイヤーに手渡すという汗のリレーが苦手なのだ。それどころかフリースによっては、吸い込んだ汗を生地内に溜め込んでしまう。このため、外気に放出されるはずの汗蒸気で生地が湿り、結果的に汗冷えを招いてしまうのだ。
こうした特徴ゆえに、バックカントリースキーのハイクアップのような低温下での高負荷アクティビティにフリースを取り入れることは、汗処理の面から好ましくないとされてきた。
しかし思い出してみてほしい。冬の朝に羽織るフリースの、毛布に包みこまれるような着心地を。袖を通した瞬間からあたたかさを感じる立ち上がりの早さも魅力だ。体のどこにも一切の突っぱり感がなく、ドライブ中も山の帰りに立ち寄ったカフェでもノンストレス。その軽さとあたたかさは極上の満足感を与えてくれる。
それなら、とTETON BROS.のクルーは考えた。
そうしたフリースの魅力を残したままで、高負荷運動にも耐えられるようなウェアはできないだろうか、と。
もちろん前述の通り、フリースは冬のハードなアクティビティには適さない。それが分かっているから、これまでさまざまなアクティブインサレーションを作ってきた。求めているものはフリースでは実現できない。しかし、着心地としてのフリースはあまりに魅力的すぎる。
「そうだね、魅力的だけどそんなフリースはないよね。OK、じゃあ作ろう」
こうしてTETON BROS.得意の、世の中にないものを生み出すプロセスが始まった。
手に入るだけのあらゆる素材の特性を見つめ直し、現場を巻き込んで製造方法を検討し、ガイドやテスターに声をかけ、どうすれば自分たちの想いの中にある一着を現実世界に下ろしてくることができるのかを探り始めたのだ。
そうしてたどり着いたのは、ある意味、TETON BROS.にとっては近年もっとも馴染みのある高機能素材であるOctaを使うことだった。Octaは8本の放射状突起断面を備える中空糸だ。構造的には、8本のリブを備えた竹輪のような糸だと思ってもらえれば間違いない。
Octaは空気をコントロールする糸だ。糸の内部の空間は動かない。したがって、状況に左右されることなく安定した保温性を発揮することができる。対して繊維同士が複雑に絡み合うことで作り出す空間は多量の空気を含む。これが静止時には保温材として働き、運動時には物理的に動かされることで周囲の空気と入れ替わって放熱性に貢献する。Octaは存在そのものが、アクティブインサレーションとしてドンピシャで機能するのだ。
このOctaを使った生地を起毛させ、フリースに仕上げたのがOcta Fleeceだ。
手にして最初に驚くのはその軽さ。表地は起毛していないのでスウェットのようにツルリとしながらも重量感のある見た目だが、手にすると拍子抜け。エアリーな手応えに、一瞬理解が追いつかないほど軽い。
左)表地のソフトで密度のある風合いのリサイクルポリエステル。右)裏面の起毛した「Octa」ニット。汗や水分を表地に素早く拡散する。
そして羽織って感じる着心地の柔らかさも格別だ。
適度なストレッチ感は体のどこにもストレスを与えず、着ている感じがないと言ってもいいほど。それでいながらフリース独特のあたたかみや、立ち上がりの早い保温性をしっかり感じ取ることができる。
加えていうならテストしたプロダクトはかつてのAfton Hoody同様のセンターオフしたジッパースタイル。バラクラバテイストのフードといいちょっと長めの袖丈といい、あらゆるパーツが体に寄り添う、心地よいフィット感を味わうことができる。
センターファスナーをオフセットすることでファスナーが重ならず、口元や鼻にも当たらない。フードは頭部にフィットし、バラクラバとしても使用可能。
しかも腹部にはマイクロジッパー装備のポケット付きだ。ハンドウォーマーとしてのサイズ感もバッチリで、保温着としては文句なし。フリースというウェアが、冬ならではの幸福感をブーストアップしてくれることを再確認できるだろう。
両サイドのジッパー付きのポケットやサムホールで手を温められ、寒い季節には重宝する。
こうした、従来のフリースに見られるメリットは確実に向上しているが、問題は汗処理と熱気のヌケだ。そこで登山、自転車、釣り、マウンテンランニング(旭岳はテストの数日後に初雪という気温)などで運動強度を変えながら吸汗具合や乾きの早さ、そして汗冷えレベルなどをチェックしてみた。その結果を詳しく述べるならあと一万字が必要になるが、一行で終わらせることもできる。
違和感なし。問題なし。っていうか、ビックリ。良い。サイコー。
現に内側のフリース面に垂れた汗は、落ちた瞬間にスッと吸い込まれてゆき、表地にしみるまでに大きく広がっていく。吸汗性はOctaの複雑に絡み合う特性と毛細管現象の賜物だが、これほど吸汗スピードの早いフリースを見たのは初めてだ。
内側のOcta起毛面に水滴を数滴落とした様子。あっという間に水滴が吸水され、表地に広がった。
さらに熱気のヌケも上々。ほぼOcta Fleeceの上にシェルは着ていない状態でのテストだったが、登山や自転車では背中にほんのり熱さを感じるものの、いわゆるフリースにある熱こもりは皆無だ。さすがにマウンテンランニングでは背中と脇にホットスポットを感じたが、それも「ラン」という運動強度の高さを考えれば納得のレベル。それよりもELV1000の上に直接羽織っていたにも関わらず汗をしっかり吸い上げていた吸汗・速乾性能の高さに驚かされた。
これならユーザーの体質や気温、運動強度などにもよるだろうが、冬のバックカントリーに採り入れることも可能だろう。今までフリースは論外、とされていたフィールドにも「適度な保温性を備える中間着」として十分に投入可能な一着が登場したのだ。
もちろんここで言い添えておかなければならないのは、Octa Fleeceはフリースとしてはかなりアクティブな状況に対応しているが、決してTETON BROS.が規定する「アクティブインサレーション」ではないということだ。
汗かきの人、極低温の中で高負荷な運動が予想される状況、ストップ&ゴーが頻繁に繰り返される行動様式などでは、OctaやVIVOを効果的に使うことでアクティブインサレーションとしての機能をさらに追求したプロダクトを選択肢にしたい。
あくまでもOcta Fleeceの魅力は、従来のフリース同様に静的な状況での高い保温力と快適な着心地を叶えながら、段違いにアクティブな状況までをもカバーすることができる守備範囲の広さにある。その意味ではこれまでに存在していなかったOcta Fleeceというフリースのために、新たに「セミアクティブインサレーション」というジャンルを設けてもいいのではないかと思えるほどだ。
なお、Octa Fleeceは生地表側にはリサイクルポリエステルを使った、スウェット生地のようなハードフェイスを備えている。フィールドテスト中にはTsurugi Lite Jacket重ねたこともあったが、シェルとの滑りが良いことで、重ね着しても着心地が低下しなかった。このように何気ない表地の加工が動きやすさに直結し、インサレーションとしての使い勝手をアップさせている点も、中間着として高評価を与えたいポイントだ。
Octa Fleeceはインサレーションとしても、穏やかな気候でのソフトシェルとしても、キャンプでのリラックスウェアや旅の上着としても使い回すことができるマルチな素材だ。
通気性と放熱性をアップして吸汗・速乾性を高めることで、フリースとしての新たな領域を切り拓いている。そのレベル違いのヌケの良さを、ぜひとも体験していただきたい。
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