「最適化」という革新 | ツルギジャケットの15年間 vol.1

「最適化」という革新

OPTIMIZATION IN PROGRESS

TETON BROS.のものづくりは、「最適化」を追求する精神に支えられています。常に、ベストの技術とアイデアを注ぎ込み、最高の製品を生み出す。しかし、それはあくまで進化の過程にすぎません。フィールドからの声に耳を傾け、リアルな要望と向き合いながら、最適な解を探し続ける。そのたゆまぬ歩みは、終わりなき最適化の旅そのものです。「ツルギジャケット」の開発を例に見ていきましょう。


ツルギジャケットはこうして誕生した

もともと「ツルギジャケット」は、2013年にアイスクライミング用ウェアとして誕生しました。

初の製品「TBジャケット&パンツ」のデビューから数年が経ち、コアな滑り手たちの間でTETON BROS.というブランドが認知され始めた頃のことです。

そんな折、一人のクライマーから「冬季クライミング用のウェアを作れないか」という要望が寄せられました。

クールダウンに効果的な前面斜めのベンチレーションを高く評価していた彼は、「このコンセプトを活かせないか」と考えたのです。

それをきっかけに立ち上がったのが「ティートン・マウンテン・プロジェクト(TMP)」です。

TETON BROS.初のマウンテニアリング向けレイヤリングシステム「TMP」のプランニングマップ(2013年)。ツルギジャケットを始め、クライマティックジャケット、ホバックスーツなど、ここから巣立ったプロダクトも少なくない。

過酷なアルパイン環境での行動を支えるプロユースの製品群で、「TBジャケット&パンツ」開発のキーワードとなった機能性・革新性・実用性を軸に、新たに「軽量性」を加え、シェルからベースレイヤーまで8つのモデルをトータルでプランニング。

そこから最初に生まれた製品が、軽量クライミングシェルという位置づけの「ツルギジャケット」です。

開発の出発点となったのは、まず「軽量化」でした。もともと「TBジャケット」はバックカントリーでの使用を想定していたため、ある程度の強度を備えた素材を採用しています。

そこで、生地を薄手にすると同時に、フロントジッパーを短くできるプルオーバー型へと設計を変更したのです。ジッパーは意外に重量があるため、短くすることは有効に思えました。

しかし一方で、ジッパーが短いと脱ぎ着がしにくいという問題が浮上します。その解決策として生まれたのが、フロントジッパーを片側に寄せ、斜めに開くというアイデアです。

これは「TBジャケット」のベンチレーションのアングルを応用したもので、着脱にストレスのない十分な開口部を確保しながら、ベンチレーションとしての機能も発揮。まさに「ツルギジャケット」のアイデンティティとも呼べる画期的な仕様の誕生です。


斜めのフロントジッパーは、ダブルスライダー仕様。下から開ければベンチレーションで、少し開けるも大きく開くも自由。内側のメッシュポケットやビブのポケットへのアクセスも容易。



シンプルな設計で最大限の効果を

次に取り組んだのは、クライミングに必要な肩周りの可動性でした。

関節周辺の生地量を増やせば、動きに余裕は生まれますが、それでは無駄に重量がかさみます。余分な生地を足すことなく、シンプルな構造とパターンメイキングによって肩周りのROM(レンジ・オブ・モーション)を確保することが大きな課題でした。

その成果を体感していただくために、今も「ツルギジャケット」を試着される方には、あえてワンサイズ小さめを着ていただくことがあります。腕を上げても突っ張らない、その動きやすさを実感していただくためです。

細部もアイスクライミングに特化した仕様を徹底しました。

クライミング用ヘルメットはバックカントリースキー用に比べてコンパクトなため、フードもそのサイズ感に合わせて設計しています。

「風雪が吹き荒れる登攀中にフード調整に手間取りたくない」という要望から、縦・横2方向のドローコードをワンアクションで調整できるアイレットストッパーを前面に採用。さらに、顔の周囲を調整するドローコードには薄手のナイロンタフタ製トンネルパーツを設けました。絞った際に顔との隙間を埋めることで、風雪の侵入を防ぐ働きをします。


ひとつのループで顔周りと頭部周囲と二方向のフード調整が可能なアイレットストッパー。ループを外に開けばロック、前に引けば解除とグローブのままでも操作は容易。「シンプルで機能的」を象徴するパーツでもある。

ハーネスにクリップするクライミングギアと干渉しないよう、裾のドローコードストッパーは前方1カ所に限定。また好評だったカフの仕様も、クライミング用グローブに合わせてシンプルに設計しています。

腹部の大型インナーポケットは、濡れたグローブを体温で乾かす目的で、メッシュ生地を採用しています。凍てつく岩壁でビバークを繰り返しながら登攀を続けるクライマーにとって、濡れたものを乾かずには、体温という熱源を有効に活用することが必須だったのです。

雪山の降雪や風から身を守るシェルジャケットといっても、バックカントリースキー&スノーボードとアイスクライミングでは求める機能が絶妙に異なります。そこで、フラッグシップの「TBジャケット」をベースに、アイスクライミングに特化した新たなアイデアを注ぎ込んで生まれたのが、「ツルギジャケット」。

それはまったく新たな設計ではなく、単なる改良でもない。まさに「最適化」と呼ぶにふさわしい進化といえます。

2013年発売当時のツルギジャケットのデザインシート。この当時から、特徴的な数々のファンクションのすべてが備わっていたことがわかる。

記事一覧に戻る