15年間の最適化 | ツルギジャケットの15年間 vol.3
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ツルギジャケットの15年間の最適化
15 YEARS OF OPTIMIZATION, THE TSURUGI JACKET
2年目から始まったアップデート
その開発段階から数えると、「ツルギジャケット」の最適化のプロセスはすでに15年に及びます。とはいえ、最初の発売モデルと現行製品を並べて見比べても、その違いに気づく方は多くないでしょう。
大きな変化を追い求めるのではなく、最適化による熟成を重ねてきたアップデートの方針が、そこには表れています。
2013年に発売になったツルギジャケットの初代モデル。時代を感じさせるカラーリングと素材感だが、ほかは現行モデルと比べても差違を見つけるのは難しい。
最初のアップデートは、発売の翌年に行われました。このときに注力したのは縫製ラインの見直しです。複雑だった箇所を徹底的に洗い出し、できる限りシンプルな縫製へと置き換えていきました。
たとえばインナーメッシュポケットは、周囲にマチ付きのフレームを設けてボディに縫い付けていますが、その一部がフロントジッパーのアングルに干渉し、縫製工程に無理が生じていました。
そこでフレームの形状を見直すことで縫製を単純化。さらにカーブしていた縫製ラインも、可能な限り直線に修正しました。
ステッチをシンプルなラインにすることで強度が増し、縫製にかかる時間も短縮される。さらにパーツを簡素化し、縫製箇所を減らすほど、縫製担当ごとの技術差も出にくくなり、トータルで縫製クオリティが向上するという効果も得られました。
一見すれば気づかれないほど地味な改良ですが、それはなくてはならない「最適化」のプロセスだったのです。
スノーボーダーが着目した着心地
「ツルギジャケット」は、使用目的をアイスクライミングに特化したプルオーバーだったこともあって、発売当初は注目されることもなく、販売数もごくわずかでした。
ところが、北米のアウトドアメディアで高い評価を受けたことをきっかけに、日本でも逆輸入のように知られるようになったという経緯があります。
そうしたなかで、このジャケットの特性がアイスクライミング以外のアクティビティでも優位性を発揮することに気がつく人が、年を追うごとに増えていきました。
サイドスタンスで前を向くスノーボーディングの回旋運動に、ジッパーが腹部にないプルオーバーのやわらかな着心地が合致した。
最初に注目したのはスノーボーダーです。バックカントリーを滑るためのシェルとしてのスペックを十分に備えつつ、軽量でストレスのない「ツルギジャケット」特有の着心地が支持されました。
特に、横向きの姿勢で上体を捻ってフォールラインに向けるとき、腹部に硬いジッパーがないことが負担を軽減し、結果として自由度の高いライディングにつながる、と支持されたのです。
一方で、滑り手の愛用者が増えたことで、思いもよらないクレームをいただくようになりました。
転倒した拍子に、インナーメッシュポケットに入れていたものが外に飛び出してしまうので、なんとかしてほしい、と。その声に応えるかたちで、その年からメッシュポケットのインナー側にもジッパーを追加しました。
ユーザーの声を受けて、内側のメッシュポケットに追加されたジッパー。初期モデルでは、表側の右ジッパーを開けるか、あるいは、フロントジッパーを下から開ければそのままアクセスできた。
もともと頭が下になることがないアイスクライミングでは必要のなかった機能ですが、新しいニーズによって加えられた改良でした。
こうした予期せぬ声に応え続けることもまた、「最適化」という終わりなきプロセスの一部です。
「ツルギジャケット」の歴史のなかで、最も大きな変化はメイン素材の更新でした。以前の素材も北米メーカーと共同開発したものでしたが、現行の「Täsmä」もまた、国内素材メーカーと何年もかけて理想のバランスを追い求めた結晶です。
東レとの3年以上に及ぶ共同開発を経て、2021年にメイン素材に採用された次世代防水通気素材「Täsmä」。2025-2026秋冬モデルからは、新たにTäsmäロゴが配置される。
どれほど優れたアイデアやパターンメイキングがあっても、素材の革新なくしてプロダクトの進化はありえません。
言い換えれば、どれほど完成度の高い製品であっても、進化の余地は常に残されているということです。
バックパックのショルダーストラップとヒップベルトと擦れる肩と腰周りの生地を変更し、耐久性をアップさせた2025-2026秋冬の最新モデル。
素材に限らず、ジッパーやストッパーといったパーツ類も次々にアップデートされます。もちろん、そのスペックをただ鵜呑みにするのではなく、まずはウェアに組み込み、徹底的にフィールドで検証するというプロセスを経て、初めて意味をもちます。
たとえば、従来以上にストレッチ性の高い素材が誕生すれば、着心地を損なうことなく、より無駄のないシェイプに改良できます。
あるいは、ヘルメットやブーツといったギアが小型軽量化すれば、フードや裾周りのサイジングを見直す必要が生じるかもしれません。
素材やパーツ、周辺ギアの進化に呼応しながら、プロダクトもまた「最適化」を続けていくのです。
その際、私たちが常に指標としてきたのは、機能的で、革新的で、実用的であること。過酷な自然環境で使われるギアとしてのウェアのあり方です。
ブランド設立当初から変わらないこのコンセプトを製品づくりのベースに据えながら、その時々で最適化を重ねてきました。
それが「ツルギジャケット」15年の歩みであり、これからも先も変わることのないTETON BROS.の開発姿勢です。
尾瀬燧ヶ岳頂上付近のナチュラルリップにベストのタイミングで当て込んだ平野崇之。ブランド立ち上げ当初からのライダーであり、檜枝岐村の中心的ガイドだ。