ツルギライトジャケットの誕生|vol.3 ツルギライト完成への歩み
素材選定から開発が始まった
「ツルギライト」の出発点は明確でした。「ツルギ」のプロダクトとしての骨格を生かしながら、高温多湿な環境でも快適に行動できるシェルをつくること。そのためには、十分に軽量で、耐水性と通気性が高く、汗蒸れを起こさない換気効果を備えている必要がありました。
春夏のアクティビティには、ハイキングや登山、クライミングなどがありますが、開発にあたっては、最も高いエアロビック強度が求められるトレイルランニングでの着用を想定しました。単に「春夏用の軽量シェル」を目指すのではなく、最も厳しい使い方から逆算する。それはまさにTETON BROS.らしいアプローチです。

TETON BROS.の2013年Spring/Summerコレクションにて、ディーラー用資料に初めて掲載された「ツルギライトジャケット」
まず着手したのは、素材の選定です。秋冬モデルよりも軽く、通気性が高く、ストレッチ性を備え、なおかつレインウェアとして十分な耐水性を持つことが必須条件でした。
そこで「ツルギ」に採用していた防水通気素材の目付を基準に、その約半分にあたる100g前後の生地を、新たにサプライヤーにリクエストします。
「目付」とは、1㎡あたりの生地重量を示す数値のこと。厚みや強度を直接表すものではありませんが、軽さやしなやかさといった素材の方向性を読み取るための重要な指標です。当時、欧米市場では、レインシェルという概念が希薄で、目付200g前後の3レイヤー素材が主流でした。軽さよりも、耐久性やプロテクションを重視した設計が一般的だったのです。
基布には強度のあるナイロンを選択し、最終的に20デニールの3レイヤー素材を採用。さらに薄い素材も検討しましたが、重量差はそれほどない一方で、フィールドでのプロテクション性や、冷たさが直接伝わるといった課題が明らかになりました。軽さを追い求めるあまり、快適性や安心感を損なっては本末転倒です。軽さだけでは成立しない。その前提が、この段階で明確になっていきました。
そうした検証の末に導き出されたのが、20デニールで目付100g前後という素材スペックでした。数値上の軽さだけでなく、春夏のフィールドで「着続けられる」ことを前提にした選択です。


上)ツルギジャケットから継承した斜めのフロントファスナー兼ベンチレーション。フラッグシップの「TBジャケット」のベンチレーションのアングルを受け継いでいる。下左)アジャスターを簡略化したフード。下右)機能はそのままに、ポケット位置を変更して秋冬モデルとのルックスの違いを狙った。
素材選定と並行して、各仕様の見直しによる軽量化も進められました。この段階で、UL系プロダクツに精通した土屋さんのアドバイスが生かされます。
袖口と裾はアジャスターを廃し、コールゴムのパイピング仕様に変更。フロントファスナーは5号から3号にサイズダウンし、ランニング用パックとの相性を考え、脇腹部分をやや短めに設定しました。
ヘルメット対応だったフードも頭部にフィットするサイズへと見直し、調整機構を簡略化しています。腹部のポケットは左側へ移し、機能はそのままに、秋冬モデルとの視覚的な差異を設けました。
パターンも刷新され、防寒用ミッドレイヤーのレイヤリングを想定しない分、身幅とアームホールを絞った細身のシルエットに。それでも、立体裁断によって肩の可動域は確保されています。こうして生地使用量を抑えたことも軽量化に寄与しています。
サンプルウェアが完成すると、ガイドやアスリート、専門店スタッフに送り、フィールドテストをお願いしました。そうして修正と再テストを5〜6回繰り返し、延べ20人以上のフィードバックが製品に反映されました。

2015年発売の初代「ツルギライトジャケット」。袖と裾の仕様が異なるが、それ以外は現行モデルとほぼ変わらない。
10年以上モデルチェンジなしという完成度
こうして完成した「ツルギライトジャケット」は、3レイヤーで重量200g台中盤というスペックの軽量シェルとして、好評をもって迎えられました。生地が薄くなったことで温暖な時期でも快適に着用でき、数値上は変わらないものの、汗の抜けがよくなったという実感が得られました。
その評価は専門店の発信力にも支えられ、ロングトレイルハイカーやULハイカー、トレイルランナーへと広がっていきます。さらに、その個性的なルックスと高い機能性から各種登山メディアにも取り上げられ、低山ハイカーや夏山登山者へと用途が拡張していくのも自然な流れでした。

「ツルギライト」のハイカーズデポ別注モデル。長年に渡って使い込んだ土屋智哉さんの私物。その後、アメリカ三大ロングトレイルのPCTを目指す若者が無償で譲り受け、スルーハイクを果たした。裾や袖のパイピングに使い込んだ跡が見られるが、10年以上前の製品とは思えないほど状態はいい。
発売以降、シェル素材は2度アップデートされましたが、パターンや細部の仕様はほぼ開発当初のまま。それだけ初期段階での完成度が高かったことを物語っています。
そして2026年春夏シーズン、デビューから11年目にして初の仕様変更を実施しました。当初の想定を超えて着用シーンが広がってきたことを受け、肩周りのパターンをより動きやすくアップデート。さらに、コールゴム仕様だった袖口にはベルクロアジャスターを追加し、降雨時のフィット感と防水性を高めました。

「ツルギライトジャケット」の現行(2026年)モデルの袖口。コールゴム仕様にベルクロアジャスターが追加されている。
あわせて、走りながら調整しやすいようアイレットストッパーの向きを見直し、首裏には汗や皮脂汚れを防ぐパネルを配置。細部まで磨き込むことで、実際のフィールドからの声をより反映させた一着へと進化しています。
「この先、ツルギライトを大きく変更することは、ほぼないでしょう」と、TETON BROS.代表で開発責任者の鈴木紀行は語ります。素材やパーツのアップデートはあっても、シェイプや機能は完成に近い。あるとすれば、縫製技術の進化による引き算的な変更だといいます。
完成度の高い「ツルギジャケット」をベースにしながら、それ以上の手間と時間が費やされた「ツルギライトジャケット」。それは、フィールドの声に耳を傾け続けた結果であり、「最適化へのプロセス」そのものだったのです。
