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捨てることで進化する

スキー、スノーボード、アウトドアの雑誌で活躍するフリーライター&フォトグラファーでありながら、北海道でアウトドア用品店「Transit 東川」を営む林拓郎氏からTeton Bros.の新商品「Ridge Pantt」のレポートが届きました


多くの人は外遊びの前には天気予報を見て、好天のタイミングで出かけているだろう。選択的に晴れを狙って出かけているので、我々のアウトドアライフは好天が前提だ。

とはいえ、アウトドアに確約はない。天気予報が好天をアピールしても、予想外に天気が悪くなることもある。もちろん標高を上げれば雲の中に入り込むのは織り込み済みだ。だから小雨や霧にも負けない超撥水のウエアを選択するのだ。これなら多少天気が崩れても対応可能。さらに早朝の朝露の草原など、足元が濡れやすいルートを歩いても気にする必要はない。加えて超撥水は水だけでなく泥や油の汚れも弾いてくれる他、長期間着ていてもイヤな匂いがつきにくいなど、どこからどう見てもアウトドア向きなのだ。

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リッジパンツの快適さは日常生活でもハッキリと体感できたけれど、どうせならフィールドに出たほうが楽しい。というわけで、大雪山系の白雲岳までハイキングにでかけた。初夏の白雲岳からは「ゼブラ」と呼ばれる雪渓の縞模様を眺めることができる。写真中央奥には北海道の最高峰・旭岳があるが、頂上到着のタイミングで雲に巻かれて姿を望むことはできなかった。この日のボトムはリッジパンツ、トップはロングトレイルフーディー。
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7月上旬の大雪山系では眺望とともに、こうした高山植物のお花畑にも巡り合うことができる。白いのはチングルマ、紫色はエゾヒメクワガタ、間に交じるピンクはエゾノツガザクラ。

というわけで、まずは高い撥水性を備えるロングトレイルフーディーとクラッグパンツをウエアリングの主軸に据えることを提案してきた。もちろん、時には雨に降られることもある。そんなときには折りたたみ傘よろしく、バックパックの中からレインウエアを取り出すのだ。しかもそのレインウエアは降り出した雨が楽しくなるほど快適で着心地が良いとくれば、雨さえもアウトドアアクティビティのアクセントになりうる。というわけで軽量快適なフェザーレインがあれば、たとえ好天が裏切られたとしても楽しさを損なうことはない。

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下山のラスト30分。いきなり空が暗くなって、強い夕立に捕まった。急な岩場だったこともあり、足元が安定していない。そこでフェザーレインのジャケットだけを着て下山を急ぐことにした。リッジパンツが雨を弾いていたのはものの1分ほど。あとは水気を吸い取って、足はどんどん濡れていく。けれど驚いたのはパンツが水を吸って重くなったり、足にまとわりついたりしないことだ。濡れてもどうにかなる、と状況が許すなら、あまり雨を気にする必要がない。このパンツは予想以上にウォーターフレンドリーなのだ。

そして嬉しいことに、天気のことをあまり気にする必要がなく、汚れに強く丈夫なアウトドアウエアは快適な普段着としても活躍してくれる。かくしてロングトレイルフーディーやクラッグパンツは多くのTeton Bros.ファンに、裏の畑からアルプスまでの汎用ライフスタイルウエアとして重宝されているのだ。

とまぁメリットばかりを挙げてはみたものの、ここには重要な視点が欠けている。初回のロングトレイルフーディーとクラッグパンツのところで少しだけ触れているが、これらの生地はやや保温性に優れすぎている。早春の長野や秋の奥多摩ならいざしらず、真夏の本州で着るにはあまりに暑い。

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暑さを避けて夜明け前から出発したものの、夏の日差しに炙られると一気に暑さは増してくる。歩き始めに着ていたロングトレイルフーディーはとっくにバックパックの中。やはり暑さが予想される行動には、クラッグパンツよりもリッジパンツのほうが適していることを実感する。ちなみに上半身は超撥水のPPPロングスリーブに、吸汗速乾のヴェイパーを重ねている。この組み合わせは冬でも愛用しており、汗かきの筆者にとってはオールシーズンで活躍する快適セットアップとなっている。

きっとTeton Bros.のことだからアスリートの誰かが「クラッグ、暑くて履けねぇ!」と叫んだに違いない。ロングトレイルフーディーなら脱げばいいけど、パンツはそうはいかんのだ!と。そして開発スタッフも「わかる! んじゃ涼しいの作ろう!」ということになったのだ。好天前提は良いけれど、考えるべきは晴れとか雨とか、そうした水平方向の天候変化だけではないはずだ。暑さとか寒さとか、そうした立体的とも言える気温変化についてもバリエーションを広げておくべきなんじゃないの?と。

で、生まれたのがリッジパンツだ。

通常、製品開発というのは良いところは残し、不満な点を改めるのが定石だ。涼しいクラッグパンツを作るなら、その最大の特徴である超撥水はキープしたまま、いかに涼しくするかがテーマになる。が、リッジパンツは、というかTeton Bros.は逆から攻めた。不満点を徹底して解消したほうが、なんか劇的に変わるじゃん!としたのだ。

不満点とは、クラッグパンツにあった「暑さ」だ。暑さに向き合うことを考えた時、ヒントとなったのが「クライミングサーフショーツ」だ。
(発売直後から大人気を呼んだこの製品の詳細については先日、ライターの福瀧智子さんが「WORDS FROM BUDDY」のコラムでも驚くべき汎用性の高さを書き上げているのでご覧いただきたい。きっと、これこそ自分に必要なショーツだとして、物欲メーターがぐんぐん上がってくるはずだ)

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箸休めにお花の写真を。黄色いのはキバナシオガマ。大雪山の固有種で、7月上旬の2週間程度だけ花を咲かせる。右奥のピンクは高山植物の女王・コマクサ。白雲岳に至る赤岳の麓には「駒草平」と名付けられた台地があり、その名の通り一面のコマクサの群落を見ることができる。

アウトドアでの使いやすさはいったん脇に置いておいて、涼しさや快適性を考えた時、超撥水はどの程度求められるものだろうか? もしかして生地の撥水性ゆえに汗が肌に残る事があるではないだろうか? だとすれば、長時間の発汗、あるいは瞬間的に大量の発汗を伴う状況では、撥水性は使いやすさを損なうこともあるのではないか。

それなら、かいた汗をスッと吸い上げてサッと乾いたほうが気化熱で涼しいだろう。もともと夏に向けてのパンツなら、川や海も遊びのフィールドだ。他の季節ほど水濡れを気にする必要はない。こうしてリッジパンツは、クラッグパンツの改良版であるはずにも関わらず最大の武器であるはずの超撥水をあっさりと捨て去って、速乾性を選びとった。

加えて、夏場のアウトドアパンツは履き心地が命だと考えた。たとえば脚を上げるときに生地の突っ張りを感じてしまったら、それだけで鬱陶しい気持ちになる。しゃがむのが億劫、足を開くのが面倒くさい。そんな気持ちになるパンツは、考えただけで暑苦しい。そこで生地にストレッチ性を与えるとともに、やや膝を曲げた姿勢の立体裁断を採用。足元に向かって緩やかにテーパードさせることでスッキリとしたシルエットを叶えながら、裾にはドローコードも備えてもたつきを防いでいる。

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メアカキンバイなどの高山植物が登山道の中にまで群落を作っているので、歩くのは置かれた石伝いになる。こんな時でもテーパードの効いたリッジパンツなら、足運びもラク。裾のドローコードを利用すれば、シューズの中に小石が入り込むこともない。

こうした上で、脇に置いておいたアウトドアの使いやすさを満たすべく、生地にはクライミングにも耐えられる丈夫なコーデュラナイロンを使用。そこに気持ち程度でのせられた撥水性をが、このパンツの系譜を物語っている。

リッジはクラッグのように天候が悪くなることにも備えたパンツではない。むしろ夏の日差しが眩しい好天のみを見据えている。クライミングサーフショーツと同様、海山川とあらゆる方向に拡大するフィールドに対応する超好天向きの製品なのだ。

しかもデザインはロープロファイルでシンプル。サンダルやローカットのスニーカーがマッチするおかげで日常生活にも違和感がなく、ちょっとおしゃれな上品さも備えている。これっくらい爽やかに使い回せるなら、暑い時期のトレッキングには申し分ない。軽い生地も、動きをじゃましないカットも、すべてが夏の夕方の涼やかな海風を思わせる。

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ももあげ、ひざの屈伸、足運びと、どれをとってもノーストレス。ポケットの中にはスマートフォンを入れっぱなしにしていたが、それが気になることもなかった。一日を終えてみるとクラッグパンツの安心感も良いけれど、リッジパンツの軽快で自由な使い心地も捨てがたい。つまり装備は、行動様式に合わせて選び分けるべきなのだ。

水濡れを気にさせないストレスフリーな履き心地は、山に川に日常生活にと大活躍。結局、行動内容や降水確率、行き先の標高や地形によってクラッグパンツと使い分けるというポジションに落ち着いている。

そうした選択肢を心地よく楽しみながら、いっそのこと、リッジパンツの生地で作ったロングトレイルフーディーがあればいいのに、と思ったりするのだった。

(ライター:林拓郎 / Photo:PECO)

Ridge Pant (Men)

¥ 14,000

WS Jenny Pant (Women)

¥ 14,000