Teton Bros. x 人 -立本明広-〈第三回〉

Teton Bros. ×人

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自然とともに歩み、共感できる仲間と製品と未来を創造していく。

Teton Bros.は日本、そして世界のフィールドで活躍するプロフェッショナルな仲間たちとフィールドで製品開発を行っています。
“Teton”の名のもとに集まってくれた多くの“人” =Teton Brothers がどのように自然と向き合い、人生を築いているのか。そして、Teton Bros. ×人の化学反応を紡ぎます。

立本明広氏をフォーカスしたインタビュー記事の第三回をお届けします。

全三回中の第三回/第二回はこちら


ガイドという人種は人が好きだ。人との関わりを非常に大切にしている。そして、自らの経験を軽視しない。自分がこれまでに力を出し尽くして積み重ねてきたことが、誰かの楽しみや快適さや安全のために役立つなら最高にハッピーなのだ。シンプルにそう考える人種だからこそ、フィールドテストは徹底しておこなう。

ガイド・立本明広のインタビュー。最終回は立本がTeton Bros.を着る理由だ。

 

僕の受け持ちは、改良点の洗い出しだと思っています

――Teton Bros.を着始めてからどのくらいですか?

この冬で6シーズン目です。

――Teton Bros.との出会いはどんなものだったんでしょう?

ノリさん(Teton Bros.代表 鈴木紀行<すずき のりゆき>)とは、Teton Bros.が立ち上がる前から知り合いでした。まだノリさんがスキーウェアの代理店に勤めてた頃で、仲のいい友人がそのブランドのサポートを受けていました。そんなことからサポートのミーティングのときに、何だか僕も一緒に飲んだりしていて、いつの間にか親しくなった感じです。

最初は代理店の人とガイド、といった関係でしたが、まぁ僕もノリさんもこういう性格ですし、すぐに立場を超えたスキー仲間のような感じになっていきました。
そのうちにノリさんは独立してTeton Bros.を始めましたが、最初から会うたびに冗談めかして「うちにおいでよ」「着てくれるんだったらいつでも歓迎だよ」と言ってくれました。その頃、僕は僕でサポートしてもらっているブランドがあったので笑ってごまかしていましたが、ちょっと魅力的なジョークだなとは思っていました。

――魅力的というのは?

平たくいうと、ガイドがフィールドで製品を着る意味というのは、どうやったらその製品が壊れるか、どうすればもっと使いやすいものになるかという、改良点の洗い出しだと思っています。

僕らガイドの年間活動日数を考えると、1シーズンで普通のユーザーの数年分の負担を製品にかけることができる。そうやって製品をフィールドで使ったレポートを出すことが僕らの仕事だと思っていますし、現場で得たアイデアを開発側とシェアすることで、もっと製品の完成度を上げていけたら嬉しい。何よりそういうコミュニケーションを取りたいと思っていました。
だけどさまざまな事情から、普通はなかなかそういう形にはなりません。僕も、製品を受け取って使わせてもらうだけのことが多く、上手くフィードバックができないことに対しては申し訳なさを感じていました。

そうこうしてるうちに、ある日ノリさんが「やっと納得してもらえるものが作れるようになってきたから、もし良かったらTeton Bros.着てみない?」と真顔で誘ってくれたんです。

――その、納得してもらえるものが作れる、というのは具体的にマテリアルの話ですか?
それともデザインや機能性の話ですか?

全部だと思います。Teton Bros.も初期の頃は試行錯誤を繰り返していて、毎年毎年アップデートを重ねながら、少しずつ製品の完成度を上げていました。それがある程度のレベルに達したとき、ノリさんとしても自信を持って、プロのガイドが着てもへこたれないものになった、という手応えがあったんじゃないでしょうか。

――なるほど

もちろん僕もノリさんとプライベートで一緒に滑るたびにウェアは見せてもらっていましたし、開発の話も聞いていました。だから良さそうだな、とは思っていました。だけど一番魅力的だったのは、開発の中心になっている人物、つまりノリさんと直接話ができるというコミュニケーション環境だったんですよ。

テストも開発もチームでやりたい。そのほうが、いいものができるから

――もう少し詳しく教えていただけますか?

もしかするとある意味、チームで動きたいという感覚に近いかもしれないです。
自分ひとりでフィールドを歩いているんじゃない。製品を手掛けた人たちと繋がっていて、何かアイデアを出すたびに反応してくれて、いいと思ったことも悪いと感じたことも全部共有しあえる。そうして全員で、製品の質を押し上げていく。そんなチームの一員になれることはもちろん、自分はこのチームに求められているという実感や、自分はこのチームに役立っているという手応えは、僕にとってはすごく大事なことなんです。

――Teton Bros.にはその空気があったんですね。
そうですね。それは今も変わりません。たとえばTBパンツのビーコンスリーブの形状とか、中にメッシュポケットがあったほうがいいとか、左側の太ももポケットだけは縦ファスナーにしてほしいとか。そういう細かいことは全部シーズン中に細かくメモしておいて、都度都度ノリさんと話します。

2023年北海道でのシェイクダウンテスト。左からTeton Bros.ファウンダーの鈴木、立本、Teton Bros.のサポートを受けるガイドカンパニー「楽」の平野崇之。よく見ると同じTBパンツでも鈴木のものと立本のものとでは、左太ももポケットのファスナーの向きが違う。これは、左足ポケットは地図の出し入れがしやすいよう縦ファスナーにしてほしいという立本のリクエストに応えたもの。こうした細かな改良点をフィールドで確認しながら、製品のブラッシュアップが進められる。

どういう状況のとき、こうなったからこう思った、という印象を残さず説明します。そして生産の都合や他のアスリートが出してきたアイデアといったことを総合的に判断して、Goが出たら製品に反映されます。

――それは確かに、手応えありますね。

僕が気になったことは、僕の今までの経験をベースに生まれてくるものだと思っています。それを真剣に受け止めてもらえるというのは、自分がこれまでやってきたことを受け入れてもらっている感じがするんです。あの経験も、あの失敗もムダじゃなかったと思えます。

――遠征に行くときも仲間と一緒がいいというお話がありました。

同じです。やっぱり気のおけない仲間と一緒に何かを進めていくのは、とても楽しいことなんです。1+1が2じゃなくて3や4になる感じ。そこから思ってた以上のものが生まれてくる、あの感じです。
誰かと一緒にやることで自分になかったものを得ることができたり、提供できたり。そういう人と人とのコミュニケーションの中から生まれた化学反応みたいなものはたくさん経験してきましたから。

23-24シーズン。北海道・旭川でのカタログ撮影。仲間と雪を楽しみながら、製品の特徴を伝えるためのメディアを作り上げる。さまざまな分野での専門職が、それぞれの技を出し尽くす行程は、立本にとって大きな喜びにつながる。

もちろん何より嬉しいのは、いい雪を思い切り滑れることだ。23-24シーズン。(福島県檜枝岐村)

――じゃあまだしばらくはTeton Bros.を着て活動していただけそうですね。

僕がお役に立てる間は、そうできたらいいと思っています。

2023年。Teton Bros.ファウンダー鈴木(左)のはからいで実現した、ノルテのモンタナスキーツアー。写真の山小屋には、一日歩いてやっと到着する。が、それだけに周囲には誰もいない。ここにステイして、夢のような日々を過ごすのだ。

――今後のガイドとしての活動に、何かビジョンはお持ちですか?

僕も55歳になったので、いつまでも若い頃と同じように動けるとは思っていないです。だけど山に行くことは楽しいので、できるだけ抗っていきたい。そのぶん走り込みも増やしていますし、動ける身体を維持していきたいと思っています。
同時にキッズのサマーキャンプやウィンターキャンプにも力を入れていて、子どもたちがアウトドアに親しめる窓口の整備も進めていきたいと思っています。

ノルテで開催しているキッズキャンプ。川を歩いて海まで行く、という冒険心あふれるツアー。立本が住むエリアは源流と海とが近いので、こうした遊びを実現しやすい。

夏のキッズキャンプは石狩湾がフィールド。きちんと装備を整えて遊び方をレクチャーしたら、あとは見守るだけ。何をどう遊ぶかは、子どもたちの想像力と好奇心にまかせてしまうそうだ。

冬のキッズキャンプ。単にゲレンデを滑るだけではなく、整地されていないところ、少し荒れているところなどを滑って、より遊びの範囲が広がるようにと考えている。

――話を伺っていると小さい頃から今のポジションに向かって、必要なことを効率よく積み重ねながら最短距離で到達したような感じがします。

とんでもない! やってきたのは自分の好きなことだけです(笑)。
計画的にこなしたことは何一つないし、遥か遠くの将来を見据えたことなんて一回もありません。ただただ真剣に遊んでいたら、いつの間にかここにいた。一つ一つ目の前のことを片付けていたら、好きなことが仕事になっていただけです。そんな行き当たりばったりの中でつかんだものが少しでも誰かのお役に立つなら、ホントに嬉しいと思っています。

好きなことをしていたらこうなっていた、という立本。けれどそれは、ただ好きにしていただけでは叶わない。
努力を楽しみ、仲間と何かを成し遂げることを喜びとする。そんな立本の生き方には、ガイド気質ともいうべきポジティブさが垣間見える気がした。
interview&text  Takuro Hayashi
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